
発達障害の特性を活かせるIT系大学とその可能性
「苦手」より「得意」に目を向ける——発達障害の進路選びに必要な視点
発達障害やその傾向がある高校生にとって、「進学」というテーマは決して単純な話ではありません。
中学時代やこれまでの学校生活で、「人と違うことが不安だった」「集団行動がつらかった」「授業についていけなかった」といった経験を持つ方もいるかと思います。その記憶が、「自分は大学なんて無理なんじゃないか」といった気持ちにつながっているかもしれません。
しかし、進路選びにおいて大切なのは、“これまでうまくいかなかった理由”をくり返すことではありません。
「自分に合う場所で、自分に合う方法で学べるか」
この視点に切り替えることが、安心して進学をはじめる鍵になります。
◼︎「できないこと」よりも「得意なこと」に注目する
発達障害のある人が「苦手」だと感じやすいのは、たとえばこんなことです。
- 長時間じっとしていること
- あいまいな指示に対応すること
- 大勢の中でのコミュニケーション
- 勉強の「やり方」がわからないままスタートしてしまうこと
一方で、次のような力に長けているケースもあります。
- 興味があることに対する集中力
- 細かい違いに気づく観察力
- 決まったルールの中で作業を正確に繰り返す力
- 感覚的・直感的にものをとらえる力(特にビジュアル面)
これは、決して一部の人に限った話ではなく、多くの発達障害のある方が共通して持っている**「認知の特徴」**です。
そして、こうした特徴を活かせる分野のひとつが、ITやデジタル分野なのです。
◼︎「評価されやすい環境」に身を置くという選択肢
IT業界やデジタル技術の世界では、「発言がうまい人」や「グループの中でうまくやれる人」が高評価を受けるとは限りません。むしろ、「きちんとコードを書けるか」「設計図通りに開発できるか」といった実務的なスキルや成果が重視されることが多くなっています。
つまり、感覚的に周囲とうまく合わせる必要が少なく、自分の得意なやり方で力を発揮できるフィールドでもあるのです。
さらに、IT分野では「資格」や「スキル」が目に見える形で評価されやすいこともポイントです。自分の努力や成長が、学歴やコミュニケーション能力以外の尺度で認められる環境は、発達障害のある人にとって自己肯定感を高めやすい場所でもあります。
◼︎ 発達障害のある学生が安心して学べる進学ルートはある
「普通の高校から、偏差値の高い大学に進学する」ことが、進学の“成功”というわけではありません。
- 一人ひとりに寄り添ったサポートがある
- 授業の受け方に柔軟性がある(個別・オンライン・eラーニング)
- 合理的配慮が事前に相談できる
- キャリアにつながる実践的なスキルが身につく
このような環境のある大学や専門学校を選ぶことで、学びに対するストレスを減らし、自分らしい将来像に近づくことができます。
もちろん、「自分で道を切り開いていく力」が必要になる場面もあります。けれど、「スタート地点に立つための環境」は、探せばちゃんとあるのです。
IT分野はなぜ発達障害の特性と相性が良いのか?
発達障害のある人が、進路を考えるときに選択肢として検討したいのが「IT分野」。
なぜITが向いていると言われるのか——それには、しっかりとした理由があります。
この章では、発達障害の特性と、IT分野における仕事内容・環境との“相性”を具体的に見ていきます。
◼︎ 1. 興味のある分野への没頭力が活かせる
ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)の傾向がある人は、**「好きなことにはとことん集中できる」**という特性を持つことがあります。
プログラミングやパソコン作業のように、「自分のペースで一人で進められる作業」は、まさにこの特性が活かせる場面です。
たとえば:
- 「コードが動くか試してみる」→ 失敗 → 調整 → 成功!の繰り返しが楽しい
- ソフトの使い方を自分で調べて覚えるのが得意
- ゲームの設計や世界観に強い興味を持っている
このような「探究型の学び方」がしやすいのが、IT系の分野です。
◼︎ 2. 明確なルール・手順がある作業に強い
「ルールがはっきりしていることに安心感がある」「マニュアル通りに繰り返す作業が得意」——
こうしたタイプの人にとって、プログラミングやデータ処理などの論理的な作業は非常に相性がよい分野です。
例:
- HTMLやCSS、Pythonなどのプログラム言語は、基本的にルールに沿って記述する
- Web制作やアプリ開発は、段取り通りに手順を踏むことが成功への近道
- データの分類や入力業務では、集中力と正確さが求められる
これらは、**「曖昧な判断を求められる場面が少ない」**という点でも安心感があります。
◼︎ 3. 「成果が形になる」から自己肯定感につながりやすい
発達障害がある方の中には、学校のテストや評価の場面で「努力しても成果が見えにくい」と感じてきた人も多いのではないでしょうか。
一方で、ITやデジタル分野では——
- 書いたプログラムが動く
- 作ったWebサイトが公開される
- AIやデータの分析結果が目に見える形になる
といったように、「できた」が実感しやすい構造になっています。これは、日々の小さな達成感を積み重ねやすく、「自分にもできる」という感覚を持ちやすい分野です。
◼︎ 4. チームワークが苦手でも“役割分担”で戦える
学校のグループ活動や話し合いが苦手でも、IT分野では「自分の作業をしっかりやること」がチームへの貢献になります。
実際の現場でも——
- 開発チームの中で「プログラミング専門」「デザイン専門」「デバッグ担当」などの分業体制
- オンライン中心のやり取り(SlackやGitHubなど)が一般的
- ミーティングは短時間・要点だけで済むケースが多い
つまり、**「人と関わるのが苦手=働けない」ではなく、「得意な方法で関われる環境がある」**というのが、ITの世界です。
◼︎ 5.「特性」に理解のある業界・企業が増えてきている
近年、IT業界では発達障害のある方の採用・活用事例が確実に増えています。
- 大手IT企業が発達障害者のための職域開発チームを立ち上げる
- 発達障害の特性に合った業務マニュアル・配慮体制を整える
- ジョブコーチ付きの雇用形態を導入する
こうした動きにより、「自分の強みを活かして働ける場所」が徐々に増えているのも現実です。
特性を理解し、活かす企業5選|IT分野で注目したい職場環境
発達障害のある方にとって、大学進学の先にある「働き方」や「社会との関わり方」は、とても大きな関心事ではないでしょうか。「就職は難しいのでは?」「自分に合う職場が見つかるのか不安…」という声もよく聞かれます。
しかし、発達障害の特性を「マイナス」ではなく「強み」として捉える風潮が、近年のIT業界では確実に広がっています。以下の企業は、働き方の柔軟性・多様な人材の受け入れ・合理的配慮の実践などの面で、特に注目されています。
▶ 株式会社サイボウズ
特徴:「多様な働き方」の先駆者として有名で、個人の特性に応じた業務調整や在宅勤務制度が整っています。精神・発達障害のある社員も在籍し、無理なくパフォーマンスを発揮できる環境づくりが進められています。
- 業務時間・働き方は自己申告で調整可能
- チームでの情報共有を重視し、過度な対人対応を避けられる仕組みも
- 発達障害に関する社内啓発も積極的に実施
▶ 株式会社LITALICO(リタリコ)
特徴: 発達障害や学習障害に特化した教育・就労支援事業を展開しつつ、社内でも当事者雇用を推進。IT分野では、職域を個人に合わせて柔軟に設計することで、適性を活かした仕事が可能です。
- 特性に応じた業務設計・役割分担が標準化
- 社員のうち多数が支援の専門知識を持ち、フォロー体制が充実
- 社外への支援事業と連携し、相談しやすい風土がある
▶ 日本マイクロソフト株式会社
特徴: グローバル企業として「Neurodiversity Hiring Program(神経多様性採用プログラム)」を導入。発達障害を含む人材の採用と定着支援に力を入れており、日本法人でも個別配慮が制度化されています。
- 面接からオンボーディングまで、特性に応じたサポートを実施
- 配慮事項や得意不得意を明文化し、配属先と共有
- リモート中心の勤務や静かな作業空間なども選択可能
▶ 富士通株式会社
特徴: 日本を代表するIT企業の一つであり、障害者雇用への取り組みが非常に早期から行われてきました。合理的配慮の導入・多様な働き方制度・発達特性への理解ある現場づくりが進んでいます。
- ソフトウェア開発や品質管理など、個人作業中心の職種で活躍例あり
- メンター制度や専任スタッフによる支援体制も整備
- 統合的な「ダイバーシティ推進本部」があり、企業全体で支援
▶ オムロン株式会社
特徴: 社会貢献型企業として知られ、「感性×技術」での製品開発を行うオムロン。発達障害を含む多様な人材が活躍できるよう、独自の適性評価や配属制度を導入。働きやすい社風が魅力です。
- 京都本社を中心に、障害者の安定雇用モデルを構築
- ITシステムの設計、開発などで集中力・論理力を活かした配置
- 職場内での対話支援やチームビルディング研修を実施
「特性を理解する社会」へと進み始めている
これらの企業に共通しているのは、**「できないことに着目するのではなく、できることを活かす」**という姿勢です。
大学や就職活動の段階から、こうした環境を意識しておくことで、自分らしく、安心して働ける未来を築く選択肢が広がります。
発達障害の特性を活かせるIT系大学【厳選5校】
① 法政大学 情報科学部(東京都小金井市)
偏差値:57.5〜62.5
法政大学はダイバーシティ推進に非常に力を入れており、障害学生支援室が設置されています。発達障害や学習上の困難を抱える学生への配慮も積極的に行われており、履修相談や試験時の配慮、支援者の配置なども可能です。
情報科学部では、AI、セキュリティ、ソフトウェア、ロボティクスなどの幅広い分野を網羅。少人数クラスやゼミ形式の授業も多く、発達特性に合った落ち着いた学習環境で学ぶことができます。
注目ポイント:
- 支援体制の整備と開かれた相談体制
- 社会的評価の高い中堅私立大学
- コミュニケーションや感覚の特性に合わせやすい個別対応も可能
② 芝浦工業大学 情報工学科(東京都豊洲/埼玉県大宮)
偏差値:57.5〜60.0
芝浦工業大学は理工系に特化した私立大学で、「実学主義」に基づいた教育が特徴です。発達障害への理解があり、学生相談室や保健管理センターが学習・生活支援を提供。必要に応じて配慮申請ができる環境が整っています。
情報工学科では、プログラミングやアルゴリズム、IoTやデータ解析などの専門スキルを身につけることが可能です。チーム学習が多いため、得意分野を活かしながらの参加もできます。
注目ポイント:
- 実践型の授業スタイルで、専門スキルが身につく
- 発達特性に理解のある教員も多く、指導が丁寧
- 理工系就職に強く、インターン制度も充実
③ 電気通信大学 情報理工学域(東京都調布市)
偏差値:60.0〜65.0
国立大学の中でも、IT・通信分野に特化した電気通信大学。障害学生支援専門スタッフによるサポートが充実しており、学習面・生活面の相談にも応じてもらえます。個別の配慮申請やレポート・試験対応の柔軟性も高いです。
情報理工学域では、情報数理、知能機械、メディア処理、ネットワークなどの先端領域を学べます。実験やプロジェクト型授業が多く、手を動かして理解するスタイルが発達特性に合う学生にも向いています。
注目ポイント:
- 国立ならではの安価な学費と充実した研究環境
- 認知・注意の特性に応じた学習方法の相談が可能
- プログラミング・数学が得意な学生には特におすすめ
④ 東京電機大学 システムデザイン工学部/未来科学部(東京都足立区ほか)
偏差値:52.5〜57.5
東京電機大学は、IT・工学教育に力を入れており、大学全体として障害学生への配慮にも取り組んでいます。カウンセリングや学習支援も整っており、相談しやすい雰囲気が特徴です。
学部ではシステム開発やユーザーインタフェース、セキュリティといった実践的な技術が学べ、ものづくりの好きな学生に適しています。課題解決型の授業スタイルが多く、得意なことに集中しやすい構成です。
注目ポイント:
- 発達特性に配慮した相談・支援体制あり
- プロジェクト学習中心で、作業の見通しが立てやすい
- 中堅私立で受験難易度もバランスが良い
⑤ 東京工芸大学 工学部 情報コース(神奈川県厚木市)
偏差値:45〜50
東京工芸大学は、アートとテクノロジーの融合をテーマに掲げており、ITとデザインの双方に触れられる独自のカリキュラムが魅力です。学習支援センターがあり、発達障害のある学生も安心して相談できる環境が整備されています。
情報コースでは、Webシステム、ソフトウェア開発、画像処理などを中心に、実際に手を動かすスタイルで学べる点が特長です。感覚的なアプローチが得意な学生にも向いています。
注目ポイント:
- 少人数制で、学びのフォローがきめ細かい
- 感覚・空間認知に強みのある学生に合う実習内容
- 学力不安のある学生にも手厚い学習支援あり
IT系大学で「特性を活かしながら」過ごすためのヒント
IT系の学びに進む中で、発達障害のある学生が安心して充実したキャンパスライフを送るには、学習環境・生活習慣・人間関係の3つの観点が重要です。ここでは、それぞれのポイントについて、実践的なヒントをご紹介します。
▶ 学習面|得意・不得意を整理し「自分なりの戦略」を立てよう
大学の学びは自主性が問われる一方で、柔軟にスケジュールを組めるという自由度の高さが強みでもあります。発達障害のある方が学習面でつまずきにくくするための工夫として、次のような方法があります:
- 履修計画は早めに立て、時間割に余裕を持たせる
→ 朝が苦手なら午後の講義を中心に選ぶ、難度の高い科目は前期に集中させないなど、自分のリズムに合わせた設計がポイントです。 - 苦手科目は“得意の土台”を使って理解する工夫を
→ 例えば数学的な論理性に強みがある場合、プログラミングはスムーズでも、レポート形式の授業でつまずくことも。苦手な形式には、メモ・音声入力・構造化ツールなどを活用して対応します。 - 学習支援センターや合理的配慮の制度を使う
→ 大学によっては、講義の音声記録・板書データの提供・テスト時間の延長などの支援が受けられることがあります。入学時に確認し、必要があれば申し出ましょう。
▶ 生活面|「疲れすぎない」時間の使い方を意識する
大学生活は、講義以外にもバイト・サークル・課外活動と選択肢が豊富ですが、無理をしすぎず、自分の回復ペースを大切にすることが継続のカギになります。
- スケジュールに「空白時間」をあえて残す
→ 連続で講義を詰めすぎず、1コマ分を休憩や移動、心を整える時間に使えるようにするのがおすすめです。 - 予定は「デジタル+紙」で可視化すると安心
→ 忘れやすい・混乱しやすい人は、Googleカレンダーと手帳の併用など、「視覚的に予定を管理できる方法」が有効です。 - 睡眠・食事・運動の基本を整える
→ 気分の変動や集中力の乱れが起きやすい人ほど、生活リズムを一定にすることが安定につながります。完璧を目指さず、「1日1食は栄養を意識」「同じ時間に寝る日を増やす」など、小さな習慣でOKです。
人間関係|「少人数でも心地よいつながり」を大切に
人付き合いが苦手、集団がストレス、という傾向のある方でも、安心できる少人数の関係を築くことで、大学生活の孤立感を防ぐことができます。
- ゼミ・実習・サークルなどで“目的のあるつながり”を選ぶ
→ 共通の課題やテーマを持って関わる場所では、雑談が苦手な人でも会話のハードルが下がります。 - 学生支援室などの相談窓口を活用する
→ 気軽に話ができる場を知っておくことで、「困ったときに助けを求めやすい環境」が確保できます。 - オンライン上の“ゆるいつながり”も選択肢
→ 対面でのやりとりが苦手な場合、学内のSlackグループや勉強用のDiscordなど、**“声を出さなくても参加できる場”**が合っていることもあります。
大学4年間は「特性を理解し、整えていく時間」
大学生活は、単に学問を学ぶだけでなく、自分の特性と向き合い、向き合い方を覚えていくための時間でもあります。
- 疲れやすい日もある
- 思うように成果が出ないときもある
- 周りと比べて落ち込むこともある
それでも、大学という場所は、**「今の自分をベースに、成長できるチャンスをくれる場所」**です。
「向いている学び方」「落ち着く環境」「得意を活かせる活動」——そういったものを、少しずつ見つけながら、安心して進んでいける道をつくっていきましょう。
まとめ|特性を理解し、強みに変える進路選択を
発達障害のある方にとって、進学や就職はときに大きな不安を伴うものです。
「みんなと同じようにできないかもしれない…」
「どの道を選べばいいのか分からない…」
そんな思いを抱えながらも、進路を考える時間は、自分のことを深く知るきっかけでもあります。
今回ご紹介してきたように、IT分野は以下のような点で、発達障害のある方にとって親和性の高いフィールドです。
- 作業の見通しが立てやすく、スキルが成果に直結しやすい
- チーム内で役割を分担できる
- リモートや静かな環境など、感覚特性に合わせやすい働き方が選べる
- 企業側の理解が進み、配慮が自然な形で受け入れられやすい
また、進学先としても、発達障害に対する支援体制や柔軟な学びの環境が整った大学は確実に増えています。大学選びを「偏差値」だけで判断するのではなく、学びのスタイル、支援の有無、カリキュラムの柔軟性など、あなた自身の特性と生活リズムに合った視点で検討することが大切です。
未来に向けて不安があるのは当然です。けれど、特性を無理に変えなくても、自分に合った道を見つけられる時代になってきています。
だからこそ今、次のように考えてみてください。
「できないことがあってもいい。
自分にできることに集中できる場所を、少しずつ探していこう。」
この先の進学や就職が、**あなたの特性が活かされる“安心して成長できる場”**につながるように。この記事が、そのヒントのひとつになれば嬉しいです。
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